対話による吉田寮問題の解決を求める教員有志の会

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対話による吉田寮問題の解決を求める要請書

2019年7月1日

総長 山極壽一 殿 

対話による吉田寮問題の解決を求める要請書

 

 今年4月26日、京都大学執行部は吉田寮現棟(旧食堂棟を含む)からの立ち退きを求めて、20名の学生を提訴しました。大学当局がそこで学ぶ学生を提訴し、授業期間中であるにもかかわらず学生を法廷の場に引きずり出すという、極めて異常な事態が生じています。わたしたち教員の教育活動に直接かかわる案件であるにもかかわらず、教授会はおろか、部局長会議の審議すら経ずにこうした決定がなされたことに対して、強い戸惑いと憤りを禁じえません。直ちに訴訟を取り下げ、対話による解決をはかることを求めます。

 2月20日、吉田寮自治会は2条件(旧食堂棟の利用と清掃・点検のための現棟立ち入り)が認められるならば全寮生が新棟に移転すると表明しました。「寮生の安全確保」が最優先の課題である以上、まず寮生の新棟への居住移転を認めて「安全確保」を図った上で、寮の管理・運営上の問題について話し合うべきではないでしょうか。5年前に大規模補修工事を終えたばかりの旧食堂棟の利用を禁ずべき理由もありません。

 このように事態がこじれてしまった背景には、これまで寮自治会と歴代学生部長・副学長との団体交渉で交わされてきた「確約書」について、川添副学長が「半ば強制された」ものであるからその内容に拘束されないという見解を示してきたことがあります。過去に吉田寮の運営をめぐって、寮生と大学当局が激しく対立した時期があることも事実ですが、これまでの合意を全て反故にすることは、学寮の自主性と学生との信頼関係を重視する立場から「確約書」に署名してきた元学生部長・副学長たちの努力や、大学当局と寮自治会の関係調整に腐心してきた職員の方々の労苦をも全否定することになりかねません。

 「対話」とは、他者の立場に想像力を及ぼし、自らのこれまでの対応を省みながら、論理を尽くして合意をつくりだそうとする努力のはずです。「すでに決まったことだ、意見は聞き置く、とにかく従え」という態度は、たとえ対面的な場面で言葉を交わしたとしても「対話」ではありません。今回の提訴は学問と教育の場にふさわしい対話の慣行を破壊するばかりでなく、京都大学の社会的信用を損ない、長きにわたる京都大学の歴史に汚点を残すものです。自治を含む学寮のありかた、そして歴史的建造物としての吉田寮の保全と再生については、少数の役員層だけで決めるのではなく、居住する学生自身、教職員、さらに建築の専門家なども含めて議論していくべきです。

 わたしたち教員有志は、山極総長に対して下記の事項を要請します。

 

一、吉田寮現棟明け渡し訴訟を直ちに取り下げること。

二、現寮生の新棟への居住移転と旧食堂棟の利用を認めること。

三、管理・運営上の問題については、居住移転により「寮生の安全確保」を図った後に、寮自治会との対話により解決すること。

 

呼びかけ人・賛同者(京都大学教員のみ、部局別50音順、下線は呼びかけ人、7月13日22時現在)

アジア・アフリカ地域研究研究科…伊藤正子木村大治重田眞義西真如、ほか2名の賛同者

教育学研究科…駒込武、ほか3名の賛同者

経済学研究科…西牟田祐二、ほか1名の賛同者

国際高等教育院…1名の賛同者

数理解析研究所…玉川安騎男

人文科学研究所…石井美保小関隆立木康介ティル・クナウト福家崇洋藤原辰史森本淳生

、ほか2名の賛同者

地球環境学堂…浅利美鈴岡田直紀、ほか1名の賛同者

東南アジア地域研究研究所…安藤和雄水野広祐

文学研究科…芦名定道伊勢田哲治川島隆高嶋航横地優子、ほか7名の賛同者

人間・環境学研究科…安部浩岩谷彩子岡真理岡田温司風間計博梶丸岳酒井敏阪上雅昭佐野泰之田邊玲子中嶋節子中筋朋那須耕介細見和之、松本卓也、ほか6名の賛同者

農学研究科…足立芳宏大澤直哉、ほか1名の賛同者

法学研究科…高山佳奈子

理学研究科…塩田隆比呂清水以知子、ほか1名の賛同者

霊長類研究所…宮地重弘

   

寮生提訴にいたる主要な出来事(2015年~2019年)

年月日 事項
2015年
2月12日
杉万俊夫学生担当理事副学長が吉田寮自治会との団体交渉において「確約書」を交わし、吉田寮現棟の老朽化対策について「大学当局は吉田寮の運営について一方的な決定を行わず、吉田寮自治会と話し合い、合意の上決定する。」「入退寮者の決定については、吉田寮現棟・吉田寮新棟ともに現行の方式を維持する」ことなどを約束する。

2017年

12月19日

京都大学が「吉田寮生の安全確保についての基本方針」を公表、吉田寮現棟老朽化の下で「可能な限り早急に学生の安全確保を実現する」ことが緊急の課題であるとして、新規入寮の停止と全寮生の退舎を求める。

2018年

8月28日

川添信介厚生補導担当副学長が「「吉田寮生の安全確保についての基本方針」の実施状況について」を公表、吉田寮自治会と大学当局との間におこなわれてきた団体交渉について「衆をたのんだ有形無形の圧力の下」に行われたものであり、歴代の学生部長・副学長による「確約書」への署名は「半ば強制された」ものであるから、「確約書」の内容に「本学が拘束されることはない」という見解を示す。

2019年

2月12日

京都大学が「吉田寮の今後のあり方について」を公表、現棟(旧食堂棟を含む)の立入禁止を宣言するとともに、6条件(「寮生又は寮生の団体として入寮募集を行わないこと」「現棟に立ち入らないこと」等)を認めた場合にのみ新棟への入居を認めるという見解を示す。
2月20日 吉田寮自治会が「表明ならびに要求」を公表、2条件(旧食堂棟の利用と清掃・点検のための現棟立ち入り)が認められるならば全寮生が新棟に移転するという見解を示す。
3月13日 川添信介厚生補導担当副学長が「吉田寮自治会の「表明ならびに要求」について」を公表、吉田寮自治会が提示した2条件を拒否、新棟への居住移転については大学執行部が提示した6条件を認めることが前提という見解を示す。
4月26日 京都大学「吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟の提起について」を公表、20名の学生を被告として京都地方裁判所に提訴。
5月27日 川添信介厚生補導担当副学長が「吉田寮現棟の明渡請求訴訟について」を公表、提訴の理由として、度重なる退去通告に従わなかったことなど現在の吉田寮自治会は「責任ある自治」の担い手とみなしえないという見解を表明。